講演内容要約とアンケート結果・質疑応答

山永先生の講演要約 より長い移植腎生着を目指して

~生活習慣について見直そう~

 

*() ①~⑭の   は、講演の中で示された資料で、

  の下段の文章はそれぞれの資料に係る講演内容の要約です。

 

 (はじめに)

熊本県では臓器提供は増えてきており、2023年で5名の方から臓器提供があり、人口比からすると日本をリードする地域となってきている。熊本赤十字病院(以下、日赤病院)では昨年6名の方に献腎移植を行った。日赤病院には現在移植後の方が400名ぐらいおられ、年間35件を目標に腎移植を行っている。

 

熊本赤十字病院と移植医療

・移植施設・・・成人、小児、生体腎移植、献腎移植、臓器摘出支援

・臓器提供施設

  臓器提供連携構築整備事業拠点施設(全国17施設の一つ)

  特定検査センター

・臍帯血バンク事業

 日赤病院の移植医療に対する役割がだんだん拡がってきている。上記の業務を同時に行っているのは国内で日赤病院のみである。

 

免疫抑制剤

・拒絶反応を予防するためのバリアを果たす。

・決められた時間に、決められた量を忘れずに飲む。

・適切な量を人それぞれに合わせて調整。

 免疫抑制剤は移植の根幹をなす一番大事な物。人によって量が変わるのは、それぞれの患者さんの適切な濃度を保つために調整しているので、他の人と比べるのはまた別の話になる。

 免疫抑制剤を減らしていってもいいんじゃないかという風潮が一時期あったが、しっかり入れないと移植腎に対する抗体ができてしまうというのがわかったので、私たちは免疫抑制剤を1年目、2年目以降も十分に入れて免疫が緩まないようにしている。また、10年、20年とかになると加齢に伴って免疫抑制がどうしても強くなってしまうことがある。根拠は最近帯状疱疹になったとか、肺炎で入院したとか、感染症の発症とかがある場合には、少し勘案して減らすなどあるが基本しっかりと入れる。ただ導入期に比べると量は少ない、副作用の起きないなるべく上端のラインを狙って調整をしている。

 

外来にきちんとこないと生着率悪い。

  このことはシンプルだが非常に重要なことである。2年目以降に生着している方のデータをコーディネーター達との院内での会議でチェックをして、予告せずに外来を飛ばしたことがある人ときちんと来院している人を比べると生着率が全然違う。これは、長期生着のための僕の一番のメッセージ! ちゃんと外来に来ることの裏には、きちんとした飲水、薬等のバックグラウンドが反映されていると思う。いろいろな値を補正しても4倍ぐらい生着率が違う。

 

コロナ禍での腎臓移植

・手術前に隔離して、PCR検査、胸部CTなどを組み合わせて陰性を確認し、安全に移植可能。

・術前に必ずコロナワクチン接種。

・コロナになった後でも適切な時間をおいて陰性確認すれば、移植も臓器提供も可能。

 

 

レジストリまとめ

・本邦の移植後COVID-19患者の予後が明らかとなった。

・ワクチンは移植患者の重症化または死亡リスクを低減させた。

・新規の移植は安全に行われていた。

・移植患者は一般人と比較して依然死亡率が高く、安全策の継続が望まれる。

 

 コロナに罹った方からの臓器提供でも腎臓の場合はうつることはないということ(肺は別)などが色々分かってきたので注意をしながら移植をしている。

 ワクチン接種は必ず継続してほしい。移植患者さんは一般の人よりワクチンの効きが悪いが、打っている方より打っていない方の方が予後が悪いとわかっているので、今後も人込みを避ける等の基本的な予防はしてほしい

 

飲 水 

 飲水についてはこれまであまりデータがなかった。我々も今まで皆さんに一律に飲んでくださいと言って、なかには一日に3000~4000飲む人も、500ぐらいの人もいる。若い人や働き盛りの30~40代の人で大体2000位平均かな。ちょっと活動量が減るにしたがって水量もへっていっているのかなと。トイレの回数も高齢になると増えてきたり、10代の方も以外に多いなと

 腎臓移植患者さんに対して、アメリカは2000以上、日本では、名古屋第二日赤、東京女子医などは1500ぐらい推奨しているが、うちでは大体2000㎖以上と言っているが、地域的なこともあるかもしれない。

 

 

飲水と腎機能~これまでのエビデンス

 ・一般人(mean eGFR80以上)

    飲水量増加によるCKD進展抑制の可能性

 ・CKD Stage3,4(eGFR60以下)

    CKD進展抑制VS CKD進展促進

 ・腎移植

    腎機能維持につながったとするデータなし

 移植患者さんはほとんどCKD3、eGFR30~60にあたる。私の研究では、eGFRはクレアチニンを基に産出されているので、筋肉量によって値が違ってくる。それより、移植腎の線維化の程度によって飲水量は異なってくるのではないかと考えている。私自身の結論としては飲みすぎも良くないんじゃないか、10002000ぐらいが丁度いいんじゃないかと思っている。ほどほどに!

 

飲 水

・点滴がFreeとなってからは20002500㎖目標

・カフェイン入りはノーカウント

・カフェインがなければお茶もOK

・家では10002000程度は飲んでほしい

 カフェイン入りは利尿作用があるためカウントしない。アンケートによると、ご高齢の方でコーヒーとかのんでおられるが、飲みすぎると脱水になってしまうので注意してほしい。

 

サプリメント

  最近小林製薬で話題になっているが、うちのドナーさんでも飲んでいる方がいて、直ぐにやめてもらった。幸い健康被害はなかったが、サプリは結構ちょっとわからないところがあるので、病院で処方しますので、自分で解決しようと思わずに病院に相談していただければと思う。

 

柑橘類

 グレープフルーツは飲んだらダメというのは総意ということでいいだろうか。しかし何が悪いかというとフラノクマリンとそれに関連する物質が悪い。ほとんど皮とかに含まれる。ジュースなど作るときは皮ごと絞るので、柑橘系にはちょっと注意が必要!温州ミカンやデコポンは含まれない。でも、ほどほどに!

 

お酒

・基本的には相互作用は気にしなくてよい。

・飲みすぎに注意!

  お酒には諸説あるが、半年から1年ぐらい経つとそろそろお酒はいいですかと必ず聞かれる。ま、ほどほどにしてくださいとこたえている。

 

 

排 尿

・膀胱容量により決まる!

・透析歴が長いと最初15程だけど最終的に300程たまるようになる。

・急に広げすぎると膀胱破裂、吻合部やられる

 

溜めすぎると逆流する。夜間が一番たまる時期なので朝起きるまで1回は行かないと。特に女性は尿道が短い関係で、膀胱炎になりやすい。それらがたまった膀胱の中で繁殖する、溜めすぎて腎臓に逆流すると、腎盂腎炎を起こしてしまうので、夜中に1回か2回はトイレに行ってくださいとお話ししている。

 

食 事

・移植後はCKD3程度の腎機能になる

・免疫抑制剤の影響で基本的にはメタボに傾きやすい

・タンパクは1g/㎏を目安に、腎機能や年齢に応じて適宜増減

・生野菜、刺身は3か月ほどは止めましょう

BBQで生焼けの鶏肉に注意!!

 透析の頃程食事の制限はないのかなと思うが、ま、ほどほどにどうぞというところ。タンパクはキロ当たり1gとなっているが、毎日宴会のようでなければ、折角移植したのであんまりガチガチはどうかなと私自身は思っている。

 ここ1、2年、生焼けの鶏肉を食べて、カンピロバクターという病原体により複数人入院したことがある。十分注意してしっかり焼いて食べてほしい。

 

⑭ 

  体 重

  腹膜透析をしていた人は大体10㎏やせる。透析をしていた人は大体5kg、透析を経ずに移植をした人はその間ぐらい。一旦体重は下がるが、半年ぐらいすると元に戻る。それ以降は人それぞれで、ずーっと体重が増える人はちょっと注意したほうがいいだろう。ほとんどの人はちょっと戻る、健康的にちょっとふっくらぐらいがちょうどいいのかなと思っている。少し糖尿がある方とか、いい薬ができてきているので。

 

【質 疑 応 答】

 

RSウィルスのワクチンは今どうなんでしょうか? 打った方がいいのかどうなのか悩んでいる

  ドナーさんから質問されることがありますが、高齢になればなるほどリスクは上がっていくので、副

作用があまりない、免疫を不活化する(免疫を上げる)ワクチンなので、抗体は割とつきやすいらしい。

風邪で重症化する高齢の方もおられるので、10年ぐらいは効くらしいので早めに打った方がいいかなと思っています。

 

・長期透析者の場合血管の石灰化が生じる。もし石灰化で血管がダメな場合移植時はどうなりますか。

  献腎移植などで石灰化が強い方がおられることがありますが、その時は、ドナーさんの腸骨動脈をい

ただいて置換する場合や、人工血管にかえてそこに移植することもあり、どちらもまずいときでも、他

の方法で移植を行い、そのために移植をしないということはありません。できることはなるべくやりま

す。

 

・柑橘類が良くないというのは、腎臓の機能があまり良くない人にも当てはまることでしょうか。

  グラセプターとか免疫抑制剤を飲んでいない場合には大丈夫です。

 

・今シリカ水がもてはやされているがそういったものは移植者や腎機能が弱いものにはどうでしょうか。

  様々御相談を受けます。例えば水素水とか、いろんな物が入っている特別な水とか。基本何があるかわからないし、実は水素水を飲んでいて何故か腎機能が上がってこられた人もおられたので。普通のフィルターされた水道水であればいいとお伝えするんですが、特殊な水に関してはデータがあまりないのでお勧めしがたいかなと。

 

・体力をつけたいとジムなどに通おうと思ったら、あんまり筋肉をつけるとクレアチニンが上がると言われました。ほんとですか。

  クレアチニン自体が筋肉から出てくる物質が腎臓を通ってオシッコとして出てくるので筋肉量が増えると、見かけ上は上がると思います。診察時に、筋トレを始めました等の話を聞いたうえで我々は管理をしますので、それ自体が腎臓に悪さをしていることはあまりなくて、もちろんやりすぎでなければ問題ありません。

 

・今まで2入りのミネラルウォーターを毎日買っていたんですが、今度水道水を機械本体に入れて浄水する契約をしましたが、普通のフィルターであれば大丈夫でしょうか。

  フィルターされた水であれば大丈夫だと思います。特別に何か添加されると少し保証はできないところはありますが。

 

 なお、講演会の最後に、先生から次のメッセージが発せられました。

 

「ドナーさんへの感謝を忘れずに、一日でも長持ちさせましょう!!」

 

 

【講演会に参加して】

山永先生は、都道府県臓器移植推進組織協議会会長、日本臓器移植ネットワーク移植検査委員会委員長他多くの役職につかれ、都道府県コーディネーターの地位向上や、移植に係る多方面の体制づくりに尽力しておられます。また、直近のこととして、来年、日赤病院が主催して九州腎臓移植研究会を開催する予定であるなど、激務をこなされている中で、この講演を快く引き受けていただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

 

 さて、日頃外来通院でお世話になってはいますが、日赤病院と移植医療についてはあまり詳しくは知らなかった、というのが本当のところです。今回の講演で、病院あげて移植医療に対する支援が行われていること、その結果、日本でも有数の移植施設としてその役割が拡がっていることに驚きと感動を覚えました。

 

 また、移植手術のビデオ映像も流されました。手術中の映像を見るのは初めてでしたが、術前から術後までとても慎重に、また個々の臓器の状態に応じてその場で処置をされていることや、尿管と膀胱をつなぐ時には逆流防止弁の措置が施されるなど、率直にすごいことが行われているのだと感じました。